2016年春に卒業予定の大学生の就職活動が今月から始まった。
ここ数年、学生が神経をとがらせているのが、「ブラック企業」の存在だ。
異常な長時間労働を強いたあげくに使い捨てている企業とされるが、
明確な定義はなく、インターネット上のあやふやな情報に振り回されがちだ。
国は来年から対策に乗り出す。
■ネットでの評判
「あそこはヤバい。ブラックだって。」
就職活動中に仲間同士でこんな会話を繰り返す学生。
情報源はインターネット。過剰な長時間労働をはじめとする強いられ、
社員が疲弊し、多くの社員が辞めていく。
これが多くの学生が抱くブラック企業のイメージ。
検索サイトに「ブラック」という打ち込み、
意中の企業の評判を探った。怪しげな情報も多かったが、
「うそだという証拠もない。
内定を得た後も、不安は消えなかった」。
東京新卒応援ハローワークには、数年前から「『ブラック』ではない
企業を受けたいので教えて欲しい」と
いう問い合わせが急増している。
しかし、「ブラック企業」に明確な定義はなく、担当者も困惑している。
学生があやふやな情報に右往左往するのは、
働きやすさを示す企業情報を手に入れることが難しいからだ。
就職情報会社「マイナビ」が就職活動中の学生に聞いた調査によると、
企業に公開してほしいデータ(複数回答)は、
「離職率」(59.4%)、「平均勤続年数」(51.6%)、「採用予定数」(51.3%)、
「有給休暇取得率」(43.6%)、「採用実績数(過去3年)」(43.2%)、
「初任給、基本給部分などの内訳」(41.6%)、「年齢別平均年収」40.7%)、
「産休・育休制度の利用率」(30.7%)の順で多かった。
(「2015年卒マイナビ学生就職モニター調査」より)
これらの情報は、社員が使い捨てられているかどうかを
推し量る材料にもなっており、
就職情報を扱う本などに一部が掲載されている。
しかし、公表は企業の自主性に任されており、学生にとって情報入手は難しい。
就職活動の際、就職先の情報を集められなかった人ほど転職志向が強い。
労働政策研究・研修機構の調査ではこんな結果も出ている。
就活時の情報収集が職業生活に影響を及ぼすのに、
それが十分にできないのが現在の就活事情だと言える。
■ミスマッチ
深刻なのは、「ブラック企業」に過剰反応するあまり、
学生の就職活動が歪んでしまっていることだ。
安心感を求めて学生の希望が大企業に集中し、
人手不足に悩む中小企業に向かわない「ミスマッチ」を
深刻化させている面がある。
こうした学生の志向を大学側も助長している。
都内の大学の就職担当職員は「学内での説明会は大企業中心。
『大企業なら比較的安心』という暗黙のメッセージだ」と言い切る。
しかし、大企業の採用試験の競争率は高い。多くは選考から漏れ、
中には、採用が決まらず、フリーターになるケースも目立つ。
新卒時に非正規労働者になると、その後正社員になれるチャンスは限られる。
一方で、中小企業は人材確保に苦慮している。
都内にある建設設備業の採用担当役員は「業界を上げてPRしているが、
会社のホームページへのアクセスは年に3、4人学生について話をすることさえ難しい」と話す。
■情報開示義務
職場の情報を学生に提供しようと、厚生労働省は、対策に乗り出す方針だ。
企業が新卒の学生を募集する際、学生の求めに応じて、離職者数や残業時間、
有給休暇取得の実績など、働きやすさに関する情報 の提供を
義務づけるというものだ。
今国会には関連法案を始めとする提出するかは企業に任されており、
欲しい情報を確実に学生が手に入れられるかどうかは分からない。
一方、こうした仕組みが出来でも課題は残る。
ある大学職員は「ネット情報で会社を分かったつもりになり、
実際に希望の会社で働く先輩に会いに行かない学生も多い。
手取り足取り指導しないと、就職に結びつかない」と手厳しい。
(2015年3月1日 読売新聞より抜粋)